しづるという名のエルフ族がいる。
エルフ族の民族衣装とよく似た東方にある異国の衣装、アストルティアにおいて和装と呼ばれるその装備を好んで着用するごく平凡な僧侶。
アストルティア各国にもその和装の愛好家は多く、比較的大規模な和装愛好家集団ー凪組ーに所属するもみじというオーガは旧知の仲であったことから、自然と凪組の人達と仲良くなり、自身も凪組に所属するようになった。
凪組、といってもアストルティアの各国大使公認の所謂チームとは異なり、本当に和装を好んでいる人々が和と輪を大切にしながら、交流を楽しんでいるといった非公認組織だ。
非公認組織とはいえ200人を超える大所帯であることから、その組織内の規律を守るー暗部ーという部門があり自らを律しながらしかし和気藹々と交流している。
そして、その暗部にしづるは所属しているのだった。
その凪組の正規隊士にワカむーという名のプクリポ族がいる。
どうやらそのワカむーはグランゼドーラ国の勇者姫の盟友であるらしく、各国の王族をはじめ、勇者姫や叡智の冠と呼ばれるアストルティアの賢者達にも顔を知られているらしい。
そのワカむーから諜報活動に長けていて、且つ癒しの呪文に長けた僧侶のしづるに、勇者姫絡みの極秘指令の手伝いを頼まれたことがこの大事件に関わることになった発端。
極秘裏に、情報を漏らすことなく、大掛かりな事件を調査し解決するのは確かに暗部向きの仕事と言える。
それでも、一見平和なこのアストルティアの裏で、そんな大きな事件が進行しているなどと、一般の民草であるしづるが本来なら関わることなどなかったはずだった。
和気藹々とした凪組の中にそんな重要人物がいるなんて思いもしなかったし、ワカむー自身が人懐っこいことから勇者の盟友であるなどと知っている人は凪組の中でも局長周辺の限られた人だけだろうと推察する。
そんな大所帯の中で、比較的新参者であるしづるを協力者に選んだ意図は今のところ分からないけれど、暗部の他のメンバーは皆忙しいから時間の都合がつけ易かったしづるが選ばれたと考えると少し合点がいく。
受けた依頼に手を抜くような輩は凪組にはいない。
その点に関してはしづるも同じだ。
口の堅さも暗部に所属するに問題ない程度にはある。
ワカむー自身も僧侶として申し分無い実力者であることから察するに、相当に危険を伴う仕事なのだろうと予想もつく。
これはアストルティアの未来をかけた大事件のほんの始まりに過ぎないとこの時点ではしづるが知る由も無いけれど。
さて、この大事件、何から話したものか・・・
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