ある日のことだった。
暗部隊士詰め所で
暗部頭領のとらちよからしづるに声がかかった。
『しづる、正規隊士のワカむーからお前に極秘の依頼があるそうだ。なぎ局長や私も一応依頼内容を聞いてはいるが、この件については私からではなくワカむーから直接指示を受けてくれないか?』普段の指令系統とは異なる指示に、少し違和感を覚えたものの局長や頭領が承知している依頼を一隊士であるしづるが断る理由は見当たらない。
違和感を感じつつも、依頼内容を聞いてみればそれにも合点がいくと思い
『わかりました。ワカむーさんの話を聞いてみます。』と頭領の指示に従うことにした。
しづるの返事を受け、とらちよが話を続ける
『奥の個室で待っていてくれ。じきにワカむーが来る算段になっている。』と続けた。
『はい』とだけ答え、奥の個室へと移動すると程なくして部屋にワカむーが現れた。
しづるは少し驚きの表情を浮かべる。
ワカむーと共に現れたのは
凪組局長であるなぎその人と、暗部頭領とらちよだったからだ。
表と裏のトップが同席するなどと思っても居なかったので一気に緊張が高まる。
同時に、これが余程重要な案件なのだと気付き安請け合いした自分を少し呪った。
その微妙な表情に気付いたのかなぎがいつもの調子で声をかけてくる
『しづる、元気にしてましたか?入隊以来あまりケアできてないのに急にこんな変則的な依頼で驚いたでしょう?』和と輪を大事にする局長らしい気遣いの言葉に少し緊張がほぐれる
『ええ、正直なところびっくりしています。』と挨拶に応じると、とらちよが言葉を続ける
『説明を省いてすまなかったな。だが、お前に断られるのも困るから敢えて詳細を話さなかったんだ、許せw』
悪戯っぽく
謝罪の言葉を紡ぐ頭領にやられたと思いつつも、ここまで来ては引き返せないことも分かってしまったので腹をくくることにした。
『急に申し訳ない、だけどこっちもちょっと急いでるんサ、許してナー』調子の軽い人懐っこい口調でワカむーが謝罪する。
『いえ、大丈夫ですよ。』少し落ち着きを取り戻してしづるが応じる。
『失礼します』個室の外からおずおずとドワーフ族の女性が人数分のお茶を持って静かに入ってくる
しづるとも仲の良い暗部詰め所に常駐している
ゼクティだった。
その物腰の柔らかさや愛らしさからマスコット的に皆に
弄られ可愛がられている。
お茶を配り終えて退室するゼクティに局長が声を掛ける
『ありがとう、引き続き人払いをお願いしますね。』ゼクティはコクリと頷くと静かに退室していった。
密室に4人になったところで
『んじゃ、人払いも済んだとトコで話を始めよかー』とワカむーが話を切り出した。
『実は、ソーラリア渓谷で異変が起こっててん。それを勇者姫と調査に行くんだけど、手練れの僧侶が1人欲しくてネ。局長に相談したら極秘任務だし口の堅い暗部が適任だろうってことだったから、ちよさんにお願いしてしづるさんを紹介して貰ったって訳サ。』手練れと言われて過大評価だとは思ったが、僧侶として認められているのは素直に嬉しかった。
照れるしづるを横目にワカむーは話を続ける。
『自分も僧侶なんだけど、勇者姫になにかあったら大変だから僧侶の手が欲しいのヨ。で、悪いんだけど、すぐにでも出立したいやんネ。無理言って悪いけど急いで支度していただけるかしら?』勇者姫に同行できるという光栄さに心が躍る反面、その責任の重大さに一瞬腰が引けたが、しづるは依頼を受けることにした。
局長と頭領は別件があり同行が困難とのことで、ワカむーとしづるの2人で勇者姫の護衛任務兼ソーラリア渓谷の調査へと向かうこととなった。
渓谷の入り口で勇者姫と待ち合わせているとのことだったので、急いで支度を整えて出立する。
その先に、予想を上回る異変が待っているとも知らずに・・・
※後編についてはネタバレ防止が困難なため、鍵つきのままとさせていただいています。ネタバレOKな方のみ『itudattesakusennha』とパス欄に入力すると読める仕様です。PR