平和だった故郷の村を、冥王に蹂躙されてから、いったいどれほどの時間が過ぎただろう。
目の前で村を焼かれ、たった一人の家族、愛する姉を奪われたあの日。
愛する全てが一瞬で灰になった絶望と、理不尽な暴力に対する強い憎しみで、心が満たされたあの日。
黒く濁った私の魂は、それでも何故か不思議な神殿へと導かれた。
誰とも判らない声が、しかし自分よりも高位の存在であることを感じさせるその声が。
私に新たな人生を与えてくれるのだという。
声の主はきっと聖なる存在なのだろう。
声を聞いているだけで、私の黒く濁った心が穏やかさを取り戻して行く。
でも、この絶望も憎しみも、そう簡単には消させない。
大切なものを守れる力、理不尽な暴力に屈しない力。
そして、冥王に復讐する力が欲しい。
私の思いを察したのか、声の主は一人のオーガ女性に引き合わせてくれた。
大きな体、力強い雰囲気とは裏腹に、ちょっと頼りなさ気な雰囲気もあるそんな印象。
どうやら、私と日を同じくして不幸にも命を落としてしまったらしい。
声の主の力で、私はこのオーガの女性の体を借りて新たな人生を歩むことになった。
新たな人生を送り始めた私は、力を求めて戦士として修行しながら旅を続けていた。
あの日の絶望をいつか冥王に味あわせる為に。
───でも、だめだった。
旅を続ける中で出会った仲間達は、まだ弱い私を気遣いながら旅をしてくれるような優しい人ばかりで、旧知の友人のように私に接してくれる。
この世界には、優しさが溢れていることを教ええくれる。
故郷を失い、愛する姉を失った私の心が、どこまでも優しい友人達との出会いで癒されていく。
気付けば、戦士として仲間を守り戦うはずの私が、友人達に守られながら旅をするようになってた。
注がれる愛情が心地よくて、絶望と憎しみを忘れ、友人達との気ままな旅を心から楽しんでいた。
───このままではいけない。
絶望や憎しみが薄れるのはまだいい。
でも、この愛すべき友人達が住むこの世界も、いつか冥王に壊されてしまうかもしれない。
あの惨劇の日のように、私を守って友人達が傷つき倒れたら、何の為に屈強なオーガの戦士になったか分からない。
守られてばかりじゃダメだ。
私ももっと強くならないと!
私を愛してくれる人達を、私が愛する人達を、今度こそ守りぬけるように。
憎しみを糧に強くなろうと思ってた日々よりも、愛情を糧に強くなろうとしている今のほうが修行が楽しい。
いつか、故郷の仇は討つ。
でも、その戦いは復讐ではなく、優しくて愛情溢れる仲間の未来を守る為に戦いたい。
あの日の絶望は忘れていない。
だから、同じ思いを私の大切な人達に味あわせない為に。
さぁ、今日も修行だ。
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